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岡山地方裁判所 昭和24年(行)26号 判決 1949年11月07日

原告

佐原圓三郞

被告

妺尾町議会

"

主文

被告が昭和二十四年五月二日其の議決を以て原告を除名した処分を取消す。

原告の其の余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「被告町議会が昭和二十四年五月初旬其の決議を以て原告を除名した処分を取消す。原告が被告町議会の議員資格を持つことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

事実

(一)  原告は被告町議会の議員であるが被告は昭和二十四年五月五日原告が地方自治法第百三十二條の規定に違反したのみならず、之に基き被告が発した勸告を聽容れず却つて被告を侮辱したとの理由で原告を除名する決議を行い其の旨原告に通知した。

然し原告は被告主張の如き地方自治法に違反したことも被告を侮辱したこともなく、右除名は法的根拠を欠く権利濫用に属するもので法律上許さるべきものでない。

(二)  即ち被告が原告を除名するに至つた経移は左の如くである。

1、妺尾町に於ては同町大字白浜三百九十五番地の一所在の町立診療所改良の方法として町協議会の審議の結果、昭和二十四年一月中診療所建物を町自治警察署廳舍に廻し新たに町立病院を建築する意見が支配的となり、たゞ其の敷地に関し大多数の者は現在の診療所跡とし、原告は現在の避病院の位置が適当と主張していた。しかるに右新建築の認可申請に付き縣の認可が得られなかつた。之に関し町長は町議会に何等の報告を行わず、又從來の設計を維持すべきや否やに付いても認られぬ儘月田國松議員と結び町の大工に指名請負わせて同年二月七日より右三百九十五番地の一地上に新築工事の着手をした。

2、他方自治警察署廳舍の位置に関し昭和二十三年中町協議会は同町大字妺尾西新田八百七十三番地の四と内定し原告も之に賛成して居たが、其の後農業協同組合が同番地上に存在の組合倉庫の爲トラック車庫を建築し、其の爲若し右予定地に署廳舍を建築した曉は右車庫と民家の爲廳舍は道路から殆んど見透しがきかなくなることゝ水田跡の爲地盤の不良に氣付き原告は右位置に付き反対するに至つた。

又其の廳舍に付いても前記の如く診療所建物を利用することに内定して居たが解体新築か家引使用かに付いては未決定であり、其の決定に付いては基礎予算、移築費等に関連することとて当然町議会の議を経るべき性質のものであるのに、建築委員であり町土木建築委員であり町土木建築請負業者である難波一夫と結ぶ月田議員は町長と語らい、昭和二十四年二月十日未決定の儘前記八百七十三番地の四に診療所建物を解体運搬して、同月二十一日建築開始と決定した。

3、右処置が妥当でないことは後原告除名に賛成した議員も認めて居るところで、小若秀太郞議員の如きは原告と共に直ちに町役場に赴き、畑武夫助役に対し右に付いて訊したところ同助役も建築位置利用方法等に付き未決定であり、運搬費予算の議決も了して居ない故差止めるとのことであつたが月田議員の一喝により沙汰止みとなり、又、三、四ケ月後に開かれた町議会に於いても眞野德一、山本岩吉両議員が月田議員及び原田町長の処置を非難したものである。

4、原告は右事情により昭和二十四年二月五日小若議員と共に町議会の開催を町長に要求し、町長は之に應じて同月二十日議会を召集し議案として、

第三号 妺尾町警察署建築位置に関する件。同廳舍及び附属建築の位置を妺尾町大字妺尾西新田八百七十三番地の四に定める。

第四号 妺尾町立診療所建築に関する件、本町に於ける医療施設完備の爲妺尾町大字白浜三百九十五番地の第一地に妺尾町診療所を建築す。

第五号 妺尾町診療所建築費一時借入金に関する件等を提出した。

第三号議案が附議されるや月田議員等は之に贊し原案通り確定の情勢にあつたので原告は発言を求め、前記出入連絡の困難等を理由として反対意見を述べたところ、眞野議員は「おい佐原、是迄出來上つて居るものを一体めぐ氣か。何処へ持つて行くのか。」と叱責し、山本議員は、「佐原、お前反対するのは間違つている。ガレージを取除ける動議を何故出さんか。」と発言し、農業協同組合理事である眞野議員は、「ガレージは絶対にのけん。」と一喝し、「一人やそこらの反対は構わん。採決。」との声で、結局原告一人の反対あつたのみの十八対一で原案確定し、次いで第四号議案の審議に移つたところ、「異議なし。異議なし。」との声あり、議長は満場一致で確定した旨告げた。

そこで原告は斯様な状態では自分一人町長等の非違を責める爲奮鬪しても効果がないと考え、既に実施着手の建築案を遮二無二通過させようとする空氣に充満して居る議会で之以上発言しても無益と看做し、「最早審議の必要はない。」と一言して退場した。退場は議員の自由であるから議長も制止せず、何人かの、「いぬる者はほつとけ。」との罵声を聞いたのみであつた。

5、然るに月田、眞野議員は重要議案審議の議会に於いて議長の許可なく、しかも「審議の必要なし。」と称して退場するのは懲罰に附すべきものである、との動議を提出し、被告議会は原告の右所爲を地方自治法第百三十五條第二項(同條第一項第二号の誤解と解す。)により処罰すべきものとし、同年三月十七日同法第百三十二條に該当するものとして原告に対し公開議場での陳謝を要求し、更に同年五月五日に至り原告を招致し意見を求め、或いは弁明を聞く等のことなく除名した旨通告して來たものである。

(三)、被告が原告除名の理由とするところは地方自治法第百三十二條該当の所爲をなしたとして陳謝要求をなしたに拘わらず、之に應ずることなく原告の都合で辞表を提出し被告議会の承認を得ずに原告が前議員の肩書で街頭宣傳ビラを配付し、且つ街頭で侮辱的言辞を交えた宣傳をして重ねて被告議会を侮辱したと言うにある。

然し被告は町長等が議会の議決を経ずに町営造物の町立診療所を取毀し移轉し、診療所敷地予算等の議決もないのに工事を開始したこと前記の如くであるのに、之に対し何等の責任を問うことなく却つて其の違法行爲に加担して事後に承認しようとする状態であつたので原告一人の無力を嘆いて議場を退出したもので、議員には議会開会中何時にても入場退場出來る権利があるもので、右行爲が前記地方自治法の法條に該当しないことは明白である。

原告は町長の非行を阻止することが出來なかつた責任を痛感して昭和二十四年四月十六日被告議会に辞表提出をなすと共に(右は同年五月二日不受理と決定された。)其の間の事情を町民に訴えたもので、議員資格を喪失したものと考えて前議員の名称を使用したことは軽卒と言い得ても被告議会を侮辱したことにはならぬ。

そもそも除名の正当なる理由は地方自治法第百三十四條により同條に違反するが、会議規則に違反した場合があるのに原告の行爲は右の場合に該当しない。しかるに被告議会が原告を一部に付き地方自治法違反とし、他の部分に付いては其の根拠を明示せず除名した本件処分は権利濫用として取消さるべきであるので、右取消と原告の議員資格存在確認を求める爲本訴請求に及んだ。と述べ、

立証として甲第一乃至九号証を提出し、証人小若弘二の証言の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として、原告主張事実中原告を除名した点、診療所建物を自治警察署廳舎に轉用して町立病院を新築するとの意見が支配的であり、其の敷地に付き原告と多数の者との間に意見が分れて居た点、警察署廳舎の敷地に関する原告の反対理由が原告主張の如き点にあつたこと、診療所建物の解体運搬の点、議案を議会に提出した点、陳謝要求を経て除名を通告した点及び原告が辞表提出した点は認めるが他の点は総べて否認する。

被告が原告を除名した理由は、原告が地方自治法第百三十四條第一項の法律(地方自治法)違反をした爲であつて、それは被告が原告に対し地方自治法第百三十二條の無礼の言葉を使用したものとして公開の議場における陳謝の懲罰を科したので原告は地方自治法の趣旨、精神より之に從わなければならないのに拘らず、之に從わなかつたのは即ち地方自治法の違反である。と述べ、

立証として乙第一、二号証を提出し、証人中司民次郞、同前壽太郞の証言を援用し、甲第一乃至三号証、第六、八、九号証の各成立を認め、爾余の甲号各号証は不知と答えた。

理由

被告議会が昭和二十四年五月初旬原告の町会議員除名決議を行い、同月五日附書面を以て原告に其の旨通告したことは当事者間に爭がない。

しかして除名処分の理由は地方自治法第百三十四條、第百三十五條に規定してある通り同法及び会議規則に違反した場合であることを要する。

成立に爭ない甲第一乃至四及び六号証並びに証人小若弘二、中司民治郞、同前壽太郞の証言を綜合すれば原告が昭和二十四年二月二十日の議会に於いて議案審議の途中、「かかる議場では審議の必要を認めぬ。」との言を発して議場を退出し、其の際相当昂奮して議案書類を丸めて机上を叩く等の行爲をしたので懲罰の動議が出て結局原告の右行爲が地方自治法第百三十二條に所謂「議会に於いて無礼の言葉を使用した」に該当するものとして「公開議場での陳謝」との懲罰処分に附す旨決し、同年三月十七日附書面で其の旨原告に告知した。(右陳謝決議告知の点は当事者間に爭はない。)ところが原告は之に應せず、同年四月十六日議員辞職願を被告議会に提出し(右願は同年五月二日被告議会に於いて不受理と決定した。)た上街頭演説等を行つたので、被告議会は同年五月二日原告の右行爲をも勘案審議の上原告を除名した事実が認められる。

被告は右原告の議場に於ける言葉は地方自治法第百三十二條所定の無礼の言葉に該当する旨主張するが、前掲各証拠並に弁論の全趣旨を綜合すれば、前記二月二十日の議会に於て右第三、第四号議案審議の当時、議長を除き表決議員十九名中原告を除く十八名は前記議案に賛成し原告一人反対意見を高唱したが、之を傾聽することなく多数を以て一氣に原案を可決せんとするの勢であつたので、原告は自已独りの反対を以ては所詮効なきものと考へ、退場するに当り自らは最早審議するも効なき旨を述べて退場したものであつて、素より議会に対し無礼の言葉を発する趣旨でもなく、又言葉そのものも之を無礼のものと解することができない。

然らば右原告の言葉を以て無礼のものとし、原告に対し公開の議場に於ける陳謝の懲罰を科した被告の決議は違法というべきであり、從つてこの陳謝決議に從わなかつたことを理由とする被告の本件除名決議も亦違法であつて之を取消すべきものである。

原告は原告が被告町議会の議員資格を有することの確認判決を求めて居るが、行政事件訴訟特例法第十二條によれば行政廳の違法処分の取消訴訟に関する確定判決は関係行政廳を拘束する旨規定し、本件に於ける原告の議員資格失格と否とは、一に除名処分の有効であるか否かにより決せらるべきものであるから、除名処分取消の判決により当然原告が議員資格を有することゝなり、被告議会も右判決に拘束せられる以上別に原告に確認の利益がなく理由なきものと認め請求を棄却すべきものである。

そこで訴訟費用に付き民事訴訟法第八十九條、第九十二條に從い主文の通り判決する。

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